栄養士のつぶやきNo.75|食と縁

ペンネーム よこさか うた

小学校低学年のころ、入院することがしばしあった。私は入院中の食事が楽しみであった。今でも覚えているのは「キャベツの味噌汁」と「鶏肉のホイル焼き」。入院期間ははっきりと覚えていないが、このメニューが出ると嬉しかったのは覚えている。子供だったこともあり、おやつの時間にはウエハースのついたアイスクリームも提供されていた。入院中は家で兄妹をみなければならない母親に代わって、私が入院している病院で働いていた父親が病室に寝泊まりをしてくれていた。そこで父親が近くのお店から購入してくるお弁当も楽しみで、病院食の他に父親のお弁当をのぞいては、おねだりをしていた。

こんなふうに食べることが好きになったのも、父親の影響が大きいかもしれない。父も食べることが好きで、料理をすることも好きだった。父の作る料理で一番好きなのは、「チンゲン菜とカニのあんかけ焼きそば」。あれをまた食べたいと思うが、再現のできない思い出の味である。家族が集まるとこの話題になり、皆で父を思い出し、あーだこーだと毎回同じ話だが、この他愛もない時間が幸せであり、私たち家族を繋ぐ縁の一つとして、ここにも食があった。

病院で働いていた親をみて、漠然と白衣を着る仕事をしたいと考えていた。進路を考える上で、最終的にたどり着いたのが管理栄養士である。淡々と大学生活を送っていたが、大学を卒業して国家資格を取得した他に得た、最大のものは友人であったと今は強く思う。卒業して十数年、今でも連絡を取り合い、ご飯を食べたりお酒を飲んだりと、食を学ぶという場で得た縁を今でも繋いでいる。

管理栄養士として社会に出てからは、子供、成人、高齢者、疾患を抱えた方等の食事に関することにわずかながらも携わってきた。この他にも、料理教室や食に関するイベントのお手伝い等、声をかけて頂くこともここ数年増えてきている。食べるということだけを楽しみにしていた子供時代。大学で栄養学を学び、身体と栄養素の関係を知った学生時代。社会人となり、病気と食事の関係や調理の仕方などを伝えている。最近では、実際に食物を作っている生産者の方々にも会い、話を聞く機会に恵まれている。私の縁を繋いでくれているところには食がある。

今、私は病院で管理栄養士として勤務をしている。何気ないことに患者さんから「ありがとう」をもらう。一緒に仕事をする方からも「ありがとう」をもらう。私はこの「ありがとう」がとても嬉しい。食を通じての縁を大事にしたい。何億人もの人がいる世界で出会った人との縁を大切にしたい。そう思うことのあったここ数ヶ月、この「栄養士のつぶやき」の依頼も、何かの縁だと思い、色々な思い出を回想しながらまとまりのない文章を綴らせてもらった。最後に、何かの縁でこれを読んでくれた方に「ありがとう」と伝えたいです。

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