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余命3ヶ月からの生還

医療法人秀眸会 大塚眼科病院 五十嵐 由

 数年前のある日、それまで病気ひとつしたことのなかった夫が突然激しい腹痛に襲われ救急車で運ばれた(※1)。検査の結果ステージ4の大腸がんで激しく肝臓に転移しており、主治医はこっそりと私に「余命3ヶ月」と告げた(※2)。
 それから辛い抗ガン剤治療が始まった。吐き気で苦しむ夫を前に「なぜ死んでいく者にこんな辛い仕打ちをするのだろう」と思っていた。ところがだんだん回復の兆しが見えてきた。3ヶ月後にはあの世行きどころか外泊許可が出された。抗ガン剤治療を休んでいる期間は食欲も回復してきたので、外泊して真っ先に食べたものは寿司、ラーメン、そして焼き肉だった。抗ガン剤で味覚障害になっているため体に悪いのにと思われるほどしょっぱいものを平気で食べた。
 とりあえず一命は食い止めたものの本当に進行を抑えているのか不安があり、主治医の薦めで高濃度ビタミンC療法を始めた。そこの医師が自らのがんをゲルソン療法で克服したとの情報を聞き、自分も始めると言い出した。ゲルソン療法というのは玄米と野菜汁のみを摂り、動物性食品を一切摂らず塩分も極力摂らないという食事療法だった。自分でやると決めたらすごいもので、今日から肉と卵は食べないと宣言した(※3)。料理など一切したことがないのにいきなり棚の奥からミキサーを引っ張り出し、皮ごとの野菜とりんご・無調整豆乳・黒砂糖少々を入れビューンと回した。そのジュースと玄米、野菜や大豆製品で作ったおかずで数ヶ月過ごした。魚はたまに食べたものの肉と卵は本当に食べなかった。そして半年後のPET検査で肝臓に転移したがんがほとんど無くなっていると告げられた。
 その時思ったのは「食事療法ってすごい」という事よりも「本人のやる気ってすごい」ということだ。ゲルソン療法が本当にがんに効いたかはわからない。(単に栄養不足でがん細胞に栄養が行き渡らなかっただけかもしれない)でも人間はどんなに辛い食事療法でも自分でやると決めたら実行できるものなのである。これは栄養指導に使えると思った。
 食事療法には家族の協力も確かに必要である。でも本当に大切なのは本人の意識の変容である。いかにやる気を喚起させるかが永遠の課題である。
※1 その時私が心配したのは夫の体ではなく、大食いの夫のために大量に作った夕食のおかずの始末だった。
※2 その時私が目眩を覚えたのは夫の死ではなく、買い換えたばかりの車の処分だった。
※3 その時私が困ったのは特売で仕入れた98円の卵2パックの行方だった。


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